キッス親衛隊の隊長、デイブ・スネイク・セイボとダイアモンド
・ダレルが彼らの人生を意味あるものにしたエース・フレーリー
本人と対面し、そして彼の衝撃的な過去を教えてもらった。
 パンテラのダイアモンド・ダレルとスキッド・ロウのデイブ・スネイク
・セイボは疑いの眼差しでお互いを見ながらも、大々的なコンテストへ
の準備をすっかり整えた。いや、一晩中汗まみれになってジャム
セッションをして、相手をやっつけようというものではない。
2人のうちどちらが”エース・フレーリーのそっくりさん大会”で
チャンピオンになれるかを競おうとしてるのだ。
 ピエロが使う白いファンデーションとシルバーを始めとする様々な
パウダーやクリームを用意した2人は、大好きなギタリスト、
元KISSのエース・フレーリーの独特の歌舞伎メイクを再現しようと、
必至で作業を進めている。2人の意気込みは凄い。何といっても
結果を判定するのが、他ならぬエース本人なのだから当然だ。
 下積み時代に何度もメイクしたことがあるダレルは、流れやすい
マスカラに手こずっているセイボを容赦なく妨害し、セイボは
パンテラのギタリストがその赤茶色の山羊ヒゲをどうやって
ベトベトにするのかと、応酬する。気が狂ったように大騒ぎしながら、
やがて2人とも仕上がった。ダイアモンドもスネイクも、1975年の
「キッスアライブ〜地獄の狂獣」の頃のエースの完璧なコピーに、
不気味に変身している。「引き分けだな」とフレーリーは少し唖然とした
様子でっささやいた。 大成功を収めている2人の若いギタリストが、
こんな奇妙なイベントに参加するなんて勿論、何か変だ。
実はセイボもダレルも、ヒーローを崇める非常にパワフルな儀式に
参加しているだけなのだ。過去29年間のロックン・ロールの秘密の
一つにキッスの幅広い影響力があり、特にエース・フレーリーは
’70年代の音楽を聴いて育った若いミュージシャン達に大きな
影響を与えている。’60年代初期のビートルズと同じように、
キッスは、漫画の登場人物の様なキャラクターと、厚みのあるハードな
サウンド、そして、物凄いステージ・ショウを通して、何百万人という
ヘッドバンカー予備軍にロックンロールを紹介した。
「キッスは俺達のロックの初体験だった」とセイボが言う。
「ギターを弾きたいと思ったきっかけはキッスだった。実は学校で、
エースのことをジミー・ペイジほど良くないと思っていた奴らと、
よくケンカしたんだよ。俺はエースの名誉をかけて闘ったんだ。」
 ダレルは去年、エースのイメージの大きなタトゥー(刺青)を胸に
入れたほど、このキッスのギタリストに夢中だ。「今日は絶対に、
胸の絵の隣に、エースにサインをして貰うぞ」とダレルは誓う。
「そして今晩テキサスに戻ったら、まっすぐタトゥー・パーラーに行って、
永遠に消えないようにインクを入れてもらうんだ。」
 フレーリーはスネイクとダレルのお世辞に恐縮しているようだ。
「本当のことを言うと、キッスの影響力に気づいたのは、俺がバンドを
脱退してからかなり経ってからなんだ」とエースは言う。「10年過ぎても
『キッス・アライブ』と『キッス・アライブU』がロックン・ロール・バイブルだ
と言いに来るキッズがいたんだ。俺は変な気分になったもんだよ。
そういう事はバンドにいる間は考えたこともなかったが、後になっても
驚かされた事実なんだ。」
 長いフォト・セッションの最後に−−その間にエースの派手な
レスポール3本に発煙弾が取り付けられた−−3人は腰を下ろして、
エースの嵐の様なキッス物語について話し合う準備をする。しかし、
その前にエースはダレルとスネイクの持ち物にサインをしなくては
いけなかった。ギター、テニス・シューズ、ポスター・・・。

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