メイクアップはクールなアイデアだと思ったよ
セイボ:キッスに入ったのは何歳の時でした?
エース:23歳
セイボ:キッスに入ったきっかけは?
エース:『ヴィレッジヴォイス』のメンバー募集広告に返事を出したんだ
「ギタリスト募集、レコード契約のあるバンド」と書いてあった。最初に練習
したのが「ジュース」ですぐ気に入ったよ。2回目のオーデションに行った時、
俺に決まったと言われた。その後、レコード契約なんて無い事が分かった(笑)。
ダレル:メイクをするというアイデアについてはどう思いました?
エース:全員シアトリアルなショウをやりたいと思っていたし、勿論、それには
メイクアップも含まれていたんだ。当時、アリス・クーパーは大人気だったし、
ニューヨーク・ドールズも活躍してた。どちらもメイクしていたんだ。だから最初に
メイクアップについて意見を訊かれた時、俺はクールなアイデアだと思ったよ。
ダレル:メイクは各自でデザインを?
エース:ああ。ロング・アイランドにある『ザ・デイジー』というクラブであのメイクを
作り上げたんだ。最初にメイクをしてプレイした夜は、ポールの顔は真っ赤で、
俺の顔はシルバーだった。最初に目の周りにメイクをして唇を黒く塗ったのは
ジーンだったと思う。それから、まず顔は白く塗って、目の周りのデザインをすべきだ
と決めたんだ。俺は昔からSFや宇宙のことに夢中だったから、そこからイメージ
を膨らませたんだ。
 素顔を大衆が知らないという事について、
フラストレーションを感じませんでしたか?
エース:いいや、最高だと思ったよ。1978年に皆が俺の素顔を知っていたら、
どこにも行けなかっただろう。面白いよ。キッスの人気が最高だった時よりも、
今の方が皆に顔を知られてるんだ。実はメイクアップはバンドの外での生活をかなり
楽なものにしてくれていたんだ。当時の俺は著名だったが、今は違う。
ダレル:俺はよく、『ダブル・プラチナム』の浮き出しになっている写真を上から擦って
メイクをしていない皆の顔はどんなんだろうと見ようとしたんだ(笑)。素顔の写真を
撮られそうになった事はありませんでしたか?
このギター、光りまっせ〜〜!
エース:写真は何度も撮られたよ。でも俺たちの側にいつもいるガードマンが、カメラを取り上げてフィルムを抜いてたんだ。
ダレル:しかし、どうやって10年間も素顔の写真を公表させないでいられたんだろう。
エース:実は殆どの雑誌が、メイクをしていない俺たちの写真を載せたくない、と思っていたんだ。素顔の俺たちの写真を撮った雑誌が
2〜3あったのを覚えているが、発表しなかった。彼らは俺たちと一緒に仕事がしたかったのさ。バンドに秘密がある事が、雑誌の
売上を伸ばしていると分かっていたし、それを台無しにしたくなかったんだ。
セイボ:俺にはバンドのイメージとメイクアップは音楽の次に来るものだったけれど、演出の部分だけでキッスを捉えていた人達も大勢
いたと思うんだ。それは問題じゃなかったですか?
エース:演劇的な要素が音楽よりも目立っていると俺には思えた時期が確かにあったよ。俺は決して音楽をショウの付属物にはしたく
なかったんだ。上手くプレイできなかったのにステージでの動きはとても良かった時に、”今夜のお前のプレイは最高の出来だった”と
皆に言われたり、プレイに集中して動きの方は少しおろそかになったりすると”今日の出来は悪かった”なんて言われたりしたんだ。
キッスにとって音楽は一番大切な要素ではないんだという事に気づいたのはその時だよ。これも、後になってバンドから脱退する事に
なった理由の一つになるんだ。
セイボ:凄く若い頃からミュージシャンになるんだと決めていました?それとも他にやりたい事がありましたか?
エース:16歳で人生の岐路に立ったんだ。進路指導の担当者は全員、俺に「アート・スクールに行ってグラフィック・デザイナーになれ」
と言った。でも、自分でもその才能があることは知っていたけれど、俺の心はロックンロールをプレイする事に夢中になっていたんだ。
そして、ある日、学校を早退して、ミッチ・ライダーのオープニングを務めたザ・フーのショウを見に行って自分が本当にやりたい事を
確信したんだ。
このまま煙に巻いて逃げちゃおうか?((^^;
 でも最近あなたはアートの方向に再び情熱を燃やしていて、
コンピュータ・グラフィックスを手がけていますね。
その話を少し聞かせて下さい。
エース:初めての展覧会を、ニュージャージーの本物のアート・ギャラリーで開いた
ばかりで、14作品を展示・即売したんだ。マッキントッシュの『Infini/D』というプログラム
で作って、今度はアニメーションもやろうと思ってるんだ。昔は皆の腕にインクでタトゥーを
描いていたし、ハイスクールでは卒業アルバムのデザインもしたりと、いつもアートには
関わっていたんだ。油絵も水彩画も、全部描けるけれど、コンピュータ・グラフィックスに
魅力を感じるのは、限界がないという点なんだ。想像力以外はね。
 ピックアップはリアだけ他の2つは配線もしてないんだ
セイボ:ギターで最初の頃に影響を受けたのは?
エース:俺のスタイルのルーツは、ジミ・ヘンドリクス、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、
ジェフ・ベック、そしてピート・タウンゼントといった人たちにある。当時の俺のソロには、
彼らから受けた影響が少しづつ入っているのが判るはずだよ。
ダレル:ギターは何本持っていますか?
エース:25本。前は150本持っていたんだけど、ヴィンテージ・マーケットがどん底の時に
投げ売りしてしまったんだ。覚えているかな・・・、エディ・ヴァン・へ−レンが有名になった時
誰もがクレーマーとジャクソンを弾く様になってヴィンテージ・ギターの価格はすごく低下した
んだ。そんなギターばかり抱えていたくなかったから、全部売ってしまったのさ。聞いてくれよ。
タックがまだ付いたままの、’50年代初期のミント・コンディションのヴィンテージ・ゴールド・
トップも何本か持っていたんだ。今なら100万ドルにはなるだろうから、ちょっと後悔してるよ。
ダレル:一番気に入っているギターは?
エース:3ピックアプのチェリー・カスタムだね。
ダレル:ピックアップは3つとも使う?
エース:いや、トレブル(リア)だけだね。他の2つは配線もしてないんだ(笑)。
 気に入ってるギター・ソロは?
エース:そうだな・・・(スネイク・セイボに)セバスチャン(・バック/スキッド・ロウのヴォーカリスト)が一番好きなのは「ストレンジ・
ウェイズ」のソロで、今俺達はこの曲をライブでプレイしてるんだ。俺があのソロの素晴らしさに気付いたのは最近だよ。
ダレル:ソロは全部即興?それともスタジオに入る前に書いておくんですか?
エース:普通は前もって考えるという事はしないね。ただボタンを押して弾き始めるんだ。
 『アライブU』に入っている「ショック・ミー」の最後の凄いギター・ソロは、
リハーサルしたもの?それともその場でやったんですか?
エース:あれはある程度計画を立ててあったんだ。一応毎晩同じソロを、多少の違いはあるけれど弾いてた。子供の頃、レコードに
入っている通りにソロを弾くギタリストを見て、感動したのを覚えている。俺は、クールなことをやろうとして、アルバムに入っている
ものとは全く違ったソロを弾くギタリストは好きじゃないし、ファンも同じ気持ちだと思う。ソロを変える事は、歌詞を変える事と同じだと
思うし、そんなことをしたらファンは失望してしまうだろう。
ダレル:理論には詳しい?
エース:全く知らない(笑)。俺がオリジナルでいられる理由の一つだと思うんだ。レッスンも正式なトレーニング
も一切受けた事がないからね。
 キッスにいた時よりも、今の方がギタリストとして尊敬されていると思いますか?
エース:’70年代よりも今の俺の方がより正当なギター・プレーヤーなんだろうな。俺はあの時代を生きた生存者だし、
ずっとギターを弾き続けているから、それを皆は尊敬してくれると思うんだ。しかし、”真面目なミュージシャンがキッスを好きだと
思うなんて、格好悪い”と思われていた時代があったと思う。いつも『16マガジン』の表紙を飾っていたから、子供向けのポップ
・グループだと思われていた時期があったんだ。
セイボ:ステージに立っていると、上手くいっているかどうかを教えてくれる何かがあるんだけれど、あなたの場合は良いプレイが
できた時はどういう気分になります?
エース:リードを弾いている時に、電気ショックのようなものが腕から手にかけて走ったら、本当にホットなプレイをしている
という事が判る。弦がバターのようになって、ギターが自然に音を出してるって感じなんだ。これは言葉では説明できない感覚だし、
俺だってこれまでに10数回しか感じた事がない。もっと何度も感じられたら、と思うよ。
ダレル:”ショック”と言えばステージで感電した時、あの時は何が起こったんです?
エース:あれには参ったよ。フロリダ州のレイクランドでの出来事だったんだけど、大きなセットを持ってツアーをしたんだ。
『キッス・アライブU』の内側に写真が載っている、2つの階段セットだよ。ジーンが1曲目でその階段を駆け下り、そして俺は
ゆっくりと下りて行った。バランスがあまり良くなかったんだ。あの夜の会場の電源は奇妙で、下りて手で金属製の手すりに
触った途端、電気が走ったんだ。手が離れなかった。やっと逃れられて後ろに退いたら、指が全部火傷だらけだったんだよ。
ポールが何が起こったか気付いて、オーディエンスにトラブルが起こった事を告げると、彼らは俺の名前を唱え始め、それが俺を
立ち直らせてくれたようなものだったんだ。何とか元通りに感じられるようになるまで10分はかかったよ。
ダレル:ピックと弦は何を使ってます?
エース:ミディアム・ピックとギブソンの.009から.046だよ。
ダレル:アンプは?
エース:最近はずっとレイニーのアンプを使っている。
ダレル:煙を出すギターのアイデアはどこから?
エース:キッスの初期の頃、ツアー中に発煙弾が手に入ったんだ。それを見たときに”レスポールの中に入れてみたら
どうだろう”と思ったんだ。穴を開けて導火線をくっつけておいて、ライターで火を点けられるようにしたら、煙はワイヤの溝を
通って外に出てくるんじゃないだろうか、と考えたのさ。そして3〜4回のショウでやってみたら、ヴォリューム・コントロールを
ダメにしてしまった事が判った(笑)。それでエンジニアと一緒に今使っているものを設計したのさ。
ダレル:時間の制限はあるんですか?それとも好きなだけ長く煙を出せる?
エース:会場によって発煙弾の大きさを変えるんだ。発煙弾は自分で作るし大きさは会場のサイズによって決める。
俺には、どれだけの時間燃えるかが、一目で判るんだ。
セイボ:パンテラとツアーをしてから、ダレルと俺はとても仲が良くなって、今ではまるで兄弟みたいな関係なんだけど、
キッスは一緒にツアーをしたバンドとどういう付き合いをしてました?
エース:俺達はどのバンドとも仲良くなってたよ。チープ・トリックやラッシュとは特に仲が良かった。
彼らとはいつもパーティーをしてたんだ。アレックス(・ライフソン/ラッシュのギタリスト)は、いつも顔の絵を描いた紙袋を頭から被って、
そのまま煙草を吸ってたよ(笑)。
ダレル:この前『キッス・アライブU』を聴いたんだけど、当時あなたの声は今より確実に弱々しかったですね。
歌う練習はしてるんですか?
エース:いや、練習もしないし、ショウの前のウォームアップもやらないんだ。でも、っこ6ヶ月、かなり歌っているのが大いに
助けになってるよ。声と言うのは筋肉の様なもので、歌えば歌うほど強くなるんだ。3〜4年前の俺の声は「デトロイト・ロック・シティ」
を歌えるほど力強くはなかったけれど、今は前よりも大声で歌えるから、ステージも数倍楽しいんだ。
ダレル:昔はスタジオで仰向けに寝て高い声を出していたと聞いたけど・・・。
エース:高い声を出す為じゃなかったんだ。俺が仰向けに寝ていたのは、緊張していたから誰にも歌っているのを見られたく
なかったからなんだよ(笑)。エディ・クレーマーに照明を落とさせて、彼から見えないように俺は寝転んだんだ。
そうやって「ショック・ミー」で初めてリード・ヴォーカルを歌ったんだよ。
 父親が何者かを、娘がついに
発見してくれたのは嬉しかったね
ダレル:あなたとジーン・シモンズとピーター・クリスと
ポール・スタンレーを一言で言うと?
エース:そうだな・・・宇宙人、モンスター、猫男、気取り屋(笑)。
セイボ:1978年にあなたとジーンとピーターとポールがソロ・アルバムを
作ったのはバンドを分裂させない為だった、という
のは本当ですか?
エース:ああ、お互いから離れている必要があったんだ。でも、
あのソロ・アルバムを作らなかったら、俺はずっとバンドに残っていたと思う。
ソロ・アルバムを作ったことで、一人で何をやれるかが判ったし、その方が
はるかにクリエイティブだと言う事を発見したんだ。
ダレル:1983年にデロリアンをぶつけた時は、実際には何をやっていたんです?
エース:ニューヨークにあるブロンクス・リヴァー・パークウェイを、
時速100キロで進行方向を逆に飛ばしてたんだ。
ダレル:酔っ払ってたんですか?
エース:それ以上だったね(笑)。
ダレル:当時はどれくらい飲んでたんです?
エース:大量にだね。でも今は必要ないんだ。
シラフでいるのは最高だよ!
ども〜〜っ●●3人組で〜すっ!
ダレル:スネイクも俺も酒を飲むのが好きなんだけど、アルコールの問題を経験したあなたから、俺達へのアドヴァイスはありますか?
エース:個人が決断することなんだよ。上手くコントロールする事ができる人達もいて、週末にだけ飲む人達もいる。だが俺は、毎日
飲みたくなってた。今の俺にはそんな事はやれないけどね。基本的には、二日酔いに耐えられなくなっていたのと、最後には自分自身を
殺してしまうだろうという事が判ったんだ。それに、いつもハイになっている俺が、今13歳になる娘に、どうして酒やドラッグをやるなと
言える?娘はこの間俺のソロ・アルバムを初めて聴いたんだが、「オゾーン」を何度も何度もかけてるんだ(笑)。あの曲で俺はハイに
なることを歌ってるんだから、ちょっと奇妙な気がしたよ。しかし、父親が何者か、何をやってきた人物なのかを娘がついに発見して
くれた事は、とても嬉しかったね。
 ポールとジーンはどうなんです?彼らがアルコールも ドラッグも一度もやった事がないというのは本当ですか?
エース:ポールは時々ワインを飲んでいたけど、飲み過ぎるという事はなかった。しかし、俺が知る限り、ジーンは酒を飲んだことも
マリファナを吸った事もない。俺は酒を飲んだ事がないヤツは信用しないんだ(笑)。
セイボ:あなたのバンドは今後どうなるんです?
エース:ついに良いメンバーの組み合わせが出来上がったと思うんだ。バンド内の相性もとても良い。今のメンバーでずっと一緒に
やれて、秋にスタジオに入ることが出来れば、これから何枚もアルバムを作る事になると思う。
セイボ:映画『地獄の復活』の制作はどうでした?
エース:実はあまり楽しめなかったんだ。俺は夜型人間だからね。夜になるとLAにあるクラブに出かけて一晩中楽しむのが好きだっ
たんだ。しかし、例えば午前8時にメイクの為に集まるとしたら、俺が泊まっていたホテルは撮影現場から1時間かかる場所にあった
から、朝の7時に二日酔いで目を覚ましてセットに行って、8時にはメイクアップを始めなければいけなかったんだ。
ダレル:将来キッスのリユニオンはあると思いますか?
エース:それはポールとジーン次第だね。彼らがキッスという名前を所有しているし、俺に対する申し込みも正式に行なわらなければ
いけないだろう。前向きに考えるかどうかって?イエスだね。素晴らしいものになるだろうな。

インタビュー/ジェフ・キッツ
オニオン・プレスのギターワールド’93/8月号より